『韓国・独裁のための時代』 by韓洪九

この本面白かった。

こんな感じの本です。

 この本は、韓国で起こった政治的暴力など、韓国社会にはびこる「闇」を取り扱い、現政権の構造の本質をえぐり出す内容となっている。

 この本の内容構成は、4つの項目に分かれている。

第1章は「憲法の上に立つ人」(P11)という項目の下、72年の維新体制が成立した直後の主な事件を振り返り、それがいかに独裁的で、民主主義を踏みにじり、どれだけ多くの犠牲を払ったかを語っている。

その主な事件とは、朴正煕と犬猿の仲であった金大中を拉致した「金大中拉致事件」(P30)、朴正煕と1歳違いで宿命のライバルであった「張俊河の疑問死」(P74)、学生からの挑戦を徹底的に踏みつぶそうとした「民青学連事件」(P45)、統一運動家8名の命を奪い取った最悪の公安事件である「人革党再建委事件」(P54)などである。

第2章は「タブー、抵抗、傷心」(P101)という項目の下、産業化を成し遂げた役軍でもあり、金城鉄壁のようであった朴正煕政権を倒した主役であったにもかかわらず、いわゆる「コンスニ」(女工)と呼ばれながら、あまり注目されてこなかった女性労働者ー東一紡織労組及びYH防疫労組などーたちの涙ぐましい生活と抵抗の歴史を描いている。(P289)

第3章では「維新の社会史」(P159)という項目の下、韓国が軍隊に支配されていく70年代に、ベトナムへの大規模な軍隊派遣や村の刷新を図る「セマウル運動」、「基地村浄化運動」など社会の幅広い領域と生活の仲に潜んでいる独裁の影を確認する。(P289)

第4章では「維新体制の崩壊」(P205)という項目の下、79年YH貿易労組事件、釜馬抗争、10・26金載圭による朴正煕大統領狙撃につながる維新体制の終息過程と80年「ソウルの春」が取り扱われる。(P289)

内容

  朴正煕は「憲法の上に立つ存在」となり、維新体制を築いた。

権力を握った朴正煕は1972年10月に大統領として、特別な宣言を行った。

その内容は、国会を解散して原稿憲法の一部条項の効力を停止させて、「祖国の平和統一を指向」する新しい憲法案を工事するというものだった。(P12)。

朴正煕は形式的な民主主義という窮屈な外皮を脱ぎ捨てて、自身の権力を絶対化した維新体制をスタートさせながら、終身執権の道を歩みだしたのである。(P12)

 彼が行ったこの維新には、一つ精神的なルーツがある。

それは日本で起こった明治維新である。朴正煕は明治維新に強い影響を受け、自分が行うべきモデルとして明治維新を崇拝していた。

この本には、「今後、我々の革命遂行に大いに参考になるのは否定できない。よって、私はこの方面に今後も関心を持ち続けるものである(P23)と朴正煕が述べた、という記載がある。

 そのような精神的な支えを胸に抱きながら、彼は自らの独裁政治を実現するために、様々な暴力的な施策を行う。

その一つが金大中拉致事件(P30)である。彼は金大中とは犬猿の仲であった。

1971年に行われた韓国の大統領選挙において、金大中によって想像以上の苦戦を強いられたことがあった。

その中で朴正煕は金大中に対する敵視を強め、二度とそのようなことがおこらないように金大中を政治の世界から追い落そうと様々な施策を講じたのである。

そのうちもっとも大きな出来事が上述の拉致事件で、それは金大中が東京に滞在している時に起こった。

結果として拉致は成功したが、日本の自衛隊の活躍もあり、金大中本人を殺害するには至らなかった。

 他にも、反維新運動の弾圧なども行っている。この事件は上述の金大中事件に影響を受けたソウル大学の学生が反維新デモを行ったのを契機に広がり、それを朴正煕が弾圧した「民青学連事件」である。

金大中事件に影響を受け始まったこの事件は、最終的にデモの学生180名が警察に連行されて、20名が拘束、56名が拘留、29日の処分を受けた。(P46)  

以上のような態度を通して、朴正煕は独裁的な施策を続け、憲法をもしのぐ立場を築いたのである。

 20世紀の後半に、韓国は二つの観点で成果を挙げた。

それは「産業化」と「民主化」である。

そしてそれを実現したのは、朴正煕の政策ゆえでなく「女性労働者」の存在ゆえであった。しかし彼女らの待遇はその活躍に見合ったものでは到底なかった。

彼女らは韓国の近代化に貢献をしたにも関わらず、「コンスニ」と呼ばれ差別、蔑視に苦しんだ。

この本では、労働者の利益のために闘った美周龍の例など、様々な女性労働者の苦闘を詳細に記している。

この本では、産業化や堅固な朴正煕政権の打倒に関して賞賛されてしかるべき彼女らが、実際は男性社会の陰に隠れ涙ぐましい努力を強いられていた悲惨な現状を暴いている。

 

70年代、韓国は軍隊を著しく拡充した。そんな中起こったベトナム派兵、セマウル運動、基地村浄化運動など、様々な運動の中は朴正煕政権による独裁の影響を受けていた。

 セマウル運動を例に挙げてみよう。

この運動は新しい村づくりを目指す地域開発運動であった。

この運動の表向きの目標は、全ての住民を参加させ彼らの精神を革新すること、開発を通じてより住みやすい村へと変え住民が充実した福祉生活を楽しむこと、個人の所得を増大させることであった。

しかしこれは理想論にすぎず、この政策の結果は必ずしもよいものではなかった。

セマウル運動の際に起こった競争の気運が押し寄せる過程で、村を越えた共同体的結びつきは破壊され、村内部でも劣悪な経済的事情によって村単位の競争に労働力を提供できない家は、村でだんだん暮らしにくくなっていった。(P198)

さらに国家が資源配分によって村内外の競争を煽ったので、ドゥレ(結い)やプマシ(きつい仕事の助け合い)のような農民自身による共同体内の相互扶助組織は全て壊れてしまった。(P203)

そしてこのような結果を招いたセマウル運動は、実は「完全に朴大統領の個人的構想で始め」られたのである。(P198)

「セマウル運動は初めから整然とした理論や体系があって始められたものではなく、最高指導者の素朴な関心から出発して、一時国政の最高政治哲学にまで発展したもの」であり、「朴正煕という個人そして維新体制を抜きには説明できない」。(P198)
このように、軍隊拡充の過程で起こった様々な出来事の背景には、朴正煕の独裁の影響があるのである。
 79年、韓国ではYH事件や釜山での民主抗争を経て、10月26日には金載圭による銃撃事件が起き、朴正煕政権は倒れることになる。朴正煕政権による独裁は終わるかと思われたが、結局全斗煥らにその維新体制は引き継がれ、真の民主化には至らなかった。

感想

先にも少し述べたが、この本は一般的に世に知られている「表」の部分だけでなく、葬り去られた「裏側」にも焦点をあてている。

この点で、韓国に対する歴史認識が改まると同時に、朴正煕を始め歴史舞台で活躍した指導者の功績は「明」のみでなく、「暗」の部分もあることがわかるであろう。

その意味で、この本は非常に価値ある本と言えるであろう。韓国の独裁政治がもたらした様々な明暗を、この本を通して私たちは学ぶことができる。

 さて、この本の本論から見えてきたことは一体どのようなものだろうか。

私は「歴史は必ずしも良い方向に進むわけではない」ということを、本論を通して学んだ。

例えば、上述した朴正煕政権による独裁は、多くの人にとって好ましいものではない。彼の独裁によってどれだけ民の意向が無視され、人の命が奪い取られたか。それはおそらく、私たちの想像をはるかに超える。

もともと「民が幸せに暮らす」ために政府は作られ、その目的にそうように法律が作られ、政治が行われる。それこそ国家の本質であるのに、実際70年代に韓国で起こったのは人々の幸福を完全に無視した独裁であった。そもそもの目的からして大きく矛盾しているではないか。けれどもそれが現実として起こったのである。

 今後の課題は、そのように完全に機能しない韓国政府が、民衆の支持を得続けることができるかどうかである。

 以前は、どんなことがあっても国に頼らざるを得なかった。けれどもインターネットが普及して個人単位での取引が容易になった今、必ずしも国家に頼る必要はない。

なぜなら「個人間の取引だけで幸せになれる人もいる」からだ。もうすでに、莫大な国民を国が管理する時代は終焉を迎えている、という論者もいる。

ネットによる「個人の万能化」の影響で、現代の若者は国家離れを起こし始めている。今やネットによる物々交換もできるし、ビットコインなどは完全に国家の枠組みを越えている。

そういう時代の流れでは、「国家を頼る」ことは必ずしも必要ではない。もっとも、国家に関心のある人がほとんどではあるが。

 そういった国に頼ることが選択肢の一つとなった現代で、果たして機能不全の国家が、その権威を維持し続けることができるのだろうか。

韓国内では未だに大惨事が起き続けている。それはこの本の本論を見れば明らかであろう。

大きな今後の課題。その一つが「国家が頼られる存在であり続けられるかどうか」なのである。

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