ドM文学の最高峰、『痴人の愛』を読みました。作者は文豪・谷崎潤一郎。
この本は面白すぎて、約380Pを2日で読んでしまいました。
さっそく見ていきましょう。
①主人公、15の小娘を「立派なレディに育てよう」と決意。
ある日、主人公の「譲治」という男がカフェで見た美女・ナオミを「自分の好みの女性」に育てようと決意。
彼女を引き取り、共に生活を始めます。この時点でぶっとんでいます笑
譲治の思う「自分好み」は、「知的かつ美しいビジュアル」でした。
彼女が思い通りに成長するよう、譲治は手塩にかけてナオミの育成に励みます。
英語やダンスなど、社会的に認められるような習い事をさせました。
しかし、だんだんと「品の良さ」が生まれた環境に左右されるという現実を目の当たりにし、彼女に幻滅していきます。
さらに、彼女は英語ができませんでした。発音だけは完璧なんですけど、どうも翻訳ができない。
上っ面だけなぞる形で、彼女は真に「賢い」女性にはなれませんでした。
譲治はナオミに失望します。
だが、しかし。
②賢くはならなかったが、「魅惑的な」女性に育った。
彼女はどうやら頭が悪い。そう感じた譲治は落ち込みますが、それとは別の、「肉体」に関しては素晴らしい成長を見せます。
それは、彼の想像をはるかにこえていきました。
そうして二人は初めて、関係を持つ。譲治は彼女が「自分だけのもの」だと信じて疑いませんでした。
ところが。
③彼女は潔白じゃなく、実は・・・・。
彼女は、かなりの「ヤリ手」でした。譲治に養ってもらっていたものの、裏でのお遊びの具合は凄まじかったのです。
譲治とも交友関係にあった男性とも関係を持っており、それを知った譲治はガク然。
とはいえ発覚当初は、彼女を失いたくもないので「謝ったら許してあげる」と言いました。
彼女は素直に謝り、その場は丸く収まります。
彼とて、彼女に夢中なのです。
しかし、彼女のクセは治りませんでした。
ついに、その交友人数が数人ではなく、もっと多いことが発覚。
譲治はついに怒り狂い、「出て行け!」とナオミに命令します。
しかし、ナオミが出て行ってしまうと、途端に彼女のことが恋しくなったのでした。
「ナオミに、帰ってきてほしい。」
何かが、譲治の心をかきむしります。
以前は職場で「君子」と呼ばれていた仕事戦士も、仕事に手がつかず、とうとう辞めてしまいます。
④ナオミが帰還し、立場が逆転。
ある日、いても立ってもいられない彼の元に、ナオミがひょっこり帰ってきます。
しかし、その理由は「荷物を取りにきた」だけ、というではありませんか。
彼女はその理由で、何度も何度も譲治の家に上がり込みます。
もちろんこれは、譲治を誘惑する作戦でした。
ナオミは譲治の沸き立つ情欲をわかっていながら、「友達として付き合う」提案をします。
その後のやりとりがあまりに良いので引用します。
「じゃ、気の毒だと思って憐れんでやるから、友達になれと云う訳かね?」
「何もそう云う意味じゃないわ。譲治さんだって憐れまれたりしないように、シッカリしていればいいじゃないの」
「ところがそれが怪しいんだよ、今シッカリしている積りだが、お前と附き合うとだんだんグラツキ出すかも知れんよ」
「馬鹿ね、譲治さんは。ーそれじゃ友達になるのはいや?」
「ああ、まあいやだね」
「いやならあたし、誘惑するわよ。ー譲治さんの決心を蹈み躙って、滅茶苦茶にしてやるわよ」
ー本文より
おい、譲治しっかりしろ!!笑
この辺りで完全に立場が逆転しています。
彼女の「魅惑」が、立場の逆転を引き起こし、譲治はそれを理解しつつもその逆境を「楽しんでいる」ように感じられるのは、ぼくだけじゃないはず。
つまりはドM・・・笑
その後は「友達としてのキス」と題して息を吹きかけられたり、一切肌に触れないように毛をそらせたり、彼女の暴虐な部分が表に出ます。
しかし、譲治は一切反抗せず、従順に作業を行っていきます。
⑤ナオミの不倫を見逃す約束をし、再び夫婦へ。
男のプライドを全てかなぐり捨て、譲治はナオミの夫に戻ることを決意します。理由は云うまでもありません笑
ここにきて、二人の上下関係が決定的となります。
クライマックス付近のシーンを引用します。
「どう? あたしの恐ろしいことが分った?」
「分った、分り過ぎるほど分ったよ」
「じゃ、さっき云ったことは忘れないわね、何でも好きにさせてくれるわね。ー夫婦と云っても、堅ッ苦しい夫婦はイヤよ、でないとあたし、又逃げ出すわよ」
「これから又、『ナオミさん』に『譲治さん』で行くんだね」
「ときどきダンスに行かしてくれる?」
「うん」
「いろいろなお友達と附き合ってもいい? もう先のように文句を云わない?」
「うん」
ー本文より
最後、もはやシモベじゃないですか笑
こうして、二人は「不倫公認」の夫婦となるのでした。
そこには男のプライドも全て捨て、ひたすら女性に従順な譲治の姿がありました。
どんだけド変態やねん・・・。
まとめ
谷崎潤一郎は「マゾヒスト」のプロ。
徹底した「非モテ&マゾ」な人で、好みがわかれるでしょう。ぼくは好きですが。
この本はその「マゾ」な部分を存分に表現してくれている傑作です。
ちなみに他の本で、谷崎は
「サディストもマゾヒストに転換する可能性がある」
と述べていました。
なので、ある意味新しい自分を発見するチャンスかもしれません。
つまりどういうことかというと、人類必読の書なんです、笑
活字が苦手な人はマンガ版もオススメ。こちらはかなり読みやすい。